だの、山の根なんぞを練りながら今の唄を唄いますのが、三人と、五人ずつ、一組や二組ではござりませんで。
 悪戯《いたずら》が蒿《こう》じて、この節では、唐黍《とうもろこし》の毛の尻尾《しっぽ》を下げたり、あけびを口に啣《くわ》えたり、茄子提灯《なすびぢょうちん》で闇路《やみじ》を辿《たど》って、日が暮れるまでうろつきますわの。
 気になるのは小石を合せて、手ん手に四ツ竹を鳴らすように、カイカイカチカチと拍子を取って、唄が段々身に染みますに、皆《みんな》が家《うち》へ散際《ちりぎわ》には、一人がカチカチ石を鳴らして、
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(今打つ鐘は、)
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 と申しますと、
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(四ツの鐘じゃ、)
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 と一人がカチカチ、五ツ、六ツ、九ツ、八ツと数えまして……
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(今打つ鐘は、
 七ツの鐘じゃ。)
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 と云うのを合図に、
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(そりゃ魔が魅《さ》すぞ!)
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 と哄《どっ》と囃《はや》して、消えるように、残らず居なくなるのでござりますが。
 何とも厭《いや》な心持で、うそ寂しい、ちょうど盆のお精霊様《しょうりょうさま》が絶えずそこらを歩行《ある》かっしゃりますようで、気の滅入《めい》りますことと云うては、穴倉へ引入れられそうでござります。
 活溌な唱歌を唄え。あれは何だ、と学校でも先生様が叱らしゃりますそうなが、それで留《や》めますほどならばの、学校へ行《ゆ》く生徒に、蜻蛉《とんぼう》釣るものも居《お》りませねば、木登りをする小僧もない筈《はず》――一向に留みませぬよ。
 内は内で親たちが、厳しく叱言《こごと》も申します。気の強いのは、おのれ、凸助《でこすけ》……いや、鼻ぴっしゃり、芋※[#「くさかんむり/更」、154−12]《ずいき》の葉の凹吉《ぼこきち》め、細道で引捉《ひッつか》まえて、張撲《はりなぐ》って懲《こら》そう、と通りものを待構えて、こう透かして見ますがの、背の高いのから順よく並んで、同一《おなじ》ような芋※[#「くさかんむり/更」、154−13]の葉を被《かぶ》っているけに、衣《き》ものの縞柄《しまがら》も気のせいか、逢魔《おうま》が時に茫《ぼう》として、庄屋様の白壁に映して見ても、どれが孫やら、忰
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