膚《はだ》に波立つ血汐《ちしお》となって、聞こえぬ耳に調《しらべ》を通わす、幽《かすか》に触る手と手の指は、五ツと五ツと打合って、水晶の玉の擦れる音、戦《わなな》く裳《もすそ》と、震える膝《ひざ》は、漂う雲に乗る心地。
ああこれこそ、我が母君……と縋《すが》り寄れば、乳房に重く、胸に軽《かろ》く、手に柔かく腕《かいな》に撓《たゆ》く、女は我を忘れて、抱く――
我児《わがこ》危い、目盲《めし》いたか。罪に落つる谷底の孤家《ひとつや》の灯とも辿《たど》れよ。と実の母君の大空から、指さしたまう星の光は、電《いなずま》となって壁に閃《ひら》めき、分れよ、退《の》けよ、とおっしゃる声は、とどろに棟に鳴渡り、涙は降って雨となる、情《なさけ》の露は樹に灌《そそ》ぎ、石に灌ぎ、草さえ受けて、暁の旭《あさひ》の影には瑠璃《るり》、紺青《こんじょう》、紅《くれない》の雫《しずく》ともなるものを。
罪の世の御二人には、ただ可恐《おそろ》しく、凄《すさま》じさに、かえって一層、ひしひしと身を寄せる。
そのあわれさに堪えかねて、今ほども申しました、児《こ》を思うさえ恋となる、天上の規《のり》を越えて、掟《おきて》を破って、母君が、雲の上の高楼《たかどの》の、玉の欄干《らんかん》にさしかわす、桂《かつら》の枝を引寄せて、それに縋《すが》って御殿の外へ。
空に浮《うか》んだおからだが、下界から見る月の中から、この世へ下りる間には、雲が倒《さかさま》に百千万千、一億万丈の滝となって、ただどうどうと底知れぬ下界の霄《そら》へ落ちている。あの、その上を、ただ一条《ひとすじ》、霞のような御裳《おすそ》でも、撓《たわわ》に揺れる一枝《ひとえだ》の桂をたよりになさる危《あぶな》さ。
おともだちの上※[#「くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《じょうろう》たちが、ふと一人見着けると、にわかに天楽の音《ね》を留《とど》めて、はらはらと立《たち》かかって、上へ桂を繰り上げる。引留められて、御姿が、またもとの、月の前へ、薄色のお召物で、笄《こうがい》がキラキラと、星に映って見えましょう。
座敷で暗《やみ》から不意にそれを。明さんは、手を取合ったは仇《あだ》し婦《おんな》、と気が着くと、襖《ふすま》も壁も、大紅蓮《だいぐれん》。跪居《ついい》る畳は針の筵《むしろ》。袖には蛇《くちなわ》、
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