な晩、中空を越す通魔《とおりま》が、魔王に、はたと捧ぐる、関所の通証券《とおりてがた》であろうも知れぬ。膝を払って衝《つ》と立って、木の葉のはらはらと揺れるに連れて、ぶるぶると渠《かれ》は身震いした。
「えへん!」
と揉潰《もみつぶ》されたような掠《かす》れた咳《せき》して、何かに目を転じて、心を移そうとしたが、風呂敷包の、御経を取出す間も遅し。さすがに心着いたのは、障子に四五枚、かりそめに貼《は》った半紙である。
これはここへ来てからの、心覚えの童謡《わらわうた》を、明が書留めて朝夕《ちょうせき》に且つ吟じ且つ詠《なが》むるものだ、と宵に聞いた。
立ったままに寄って見ると、真先《まっさき》に目に着いたのが濃い墨で、
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落葉一枚、
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僧は更に悚然《ぞっ》とした。
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落葉一枚、
二枚、三枚、
十《とお》とかさねて、
落葉の数も、
ついて落いた君の年、
君の年――
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振返ると、まだそこに、掃掛けて廃《よ》したように、蒼《あお》きが黒く散々《ちりぢり》である。
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懐かしや、花の常夏《とこなつ》、
霞川に影が流れた。
その俤《おもかげ》や、俤や――
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紙を通して障子の彼方《かなた》に、ほの白いその俤が……どうやら透《す》いて見えるようで、固くなった耳の底で、天の高さ、地の厚さを、あらん限り、深く、遥《はるか》に、星の座も、竜宮の燈《ともしび》も同一《おなじ》遠さ、と思う辺《あたり》、黄金《こがね》の鈴を振るごとく、ただ一声《こえ》、コロリン、と琴が響いた。
はっと半紙を見ると、瞳へチラリ。
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コロリン!
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と字が動いたよう。続けて――
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琴の音が…………
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と記してあった。
四十
客僧は思案して、心を落着け、衣紋《えもん》を直して、さて、中に仏像があるので、床の間を借りて差置いた、荷物を今解き始めたが、深更のこの挙動《ふるまい》は、木曾街道の盗賊《ものどり》めく。
不浄よけの金襴《きんらん》の切《きれ》にくるんだ、たけ三寸ばかり、黒塗《くろぬり》の小さな御厨子《みずし》を捧げ出して、袈裟《けさ》を
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