、瓦屋根を踏倒して、股倉《またぐら》へ掻込《かいこ》む算段、図星図星。しゃ!明神様の託宣《おつげ》――と眼玉《まなこだま》で睨《にら》んで見れば、どうやら近頃から逗留《とうりゅう》した渡りものの書生坊《しょせっぽう》、悪く優しげな顔色《つらつき》も、絵草子で見た自来也《じらいや》だぞ、盗賊の張本ござんなれ。晩方|来《う》せた旅僧めも、その同類、茶店の婆《ばば》も怪しいわ。手引した宰八も抱込まれたに相違ない。道理こそ化物沙汰に輪を掛《かけ》る。待て待て狂人《きちがい》の真似何でもない事、嘉吉も一升飲まされた――巫山戯《ふざけ》た奴等《やつら》、どこだと思う。秋谷村には甘え柿と、苦虫あるを知んねえか、とわざと臆病に見せかけて、宵に遁《に》げたは真田幸村《さなだゆきむら》、やがてもり返して盗賊《どろぼう》の巣を乗取《のっと》る了簡《りょうけん》。
いつものように黄昏《たそがれ》の軒をうろつく、嘉吉|奴《め》を引捉《ひっとら》え、確《しか》と親元へ預け置いたは、屋根から天蚕糸《てぐす》に鉤《はり》をかけて、行燈を釣らせぬ分別。
かねて謀計《はかりごと》を喋合《しめしあわ》せた、同じく晩方|遁《に》げる、と見せた、学校の訓導と、その筋の諜者《ちょうじゃ》を勤むる、狐店《きつねみせ》の親方を誘うて、この三人、十分に支度をした。
二人は表門へ立向い、仁右衛門はただ一人、怪しきものは突殺そう。狸に化けた人間を打殺《ぶちころ》すに仔細はない、と竹槍を引《ひっ》そばめて、木戸口から庭づたいに、月あかりを辿《たど》り辿り、雨戸をあてに近づいて、何か、手品の種がありはせぬか、と透かして屋根の周囲《まわり》をぐるりと見ると。……
三十七
烏が一羽|歴然《ありあり》と屋根に見えた。ああ、あの下|辺《あたり》で、産婦が二人――定命とは思われぬ無残な死にようをしたと思うと、屋根の上に、姿が何やら。
この姿は、葎《むぐら》を分けて忍び寄ったはじめから、目前《めさき》に朦朧《もうろう》と映ったのであったが、立って丈長き葉に添うようでもあり、寝て根を潜《くぐ》るようでもあるし、浮き上って葉尖《はさき》を渡るようでもあった。で、大方仁右衛門自分の身体《からだ》と、竹槍との組合せで、月明《つきあかり》には、そんな影が出来たのだろう、と怪しまなかったが、その姿が、ふと屋根の上に移っ
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