年より卯月《うづき》八日は吉日よ
尾長《おなが》蛆虫《うじむし》成敗ぞする
[#ここで字下げ終わり]
「ここに倒《さかさま》にはってあるのは、これは誰方《どなた》がお書きなすった、」
「……南無阿弥陀仏《なまいだ》、南無阿弥陀仏……」
「ああ、佳《い》いおてだ。」
と大和尚のように落着いて、大《おおき》く言ったが、やがてちと慌《あわただ》しげに小さな坊さまになって急いで出た。
「ええ、疾《はや》く出さっせえ、私《わし》もう押堪《おっこら》えて、座敷から庭へ出て用たすべい。」
「ほんとに誰が書いたんだね、女の手だが、」
と掛手拭を賞《ほ》めた癖に、薄汚れた畳んだのを自分の袂《たもと》から出している。
「南無阿弥陀仏《なんまいだぶ》、ソ、それは、それ、この次の、次の、小座敷で亡くならしっけえ、どっかの嬢様が書いて貼《は》っただとよ、直《じ》きそこだ、今ソンな事あどうでも可《え》え。頭から、慄然《ぞっ》とするだに、」
「そうかい、ああ私も今、手を拭《ふ》こうとすると、真新しい切立《きりたて》の掛手拭が、冷く濡れていたのでヒヤリとした。」
「や、」と横飛びにどたりと踏んだが、その跫音《あしおと》を忍びたそうに、腰を浮かせて、同一《おなじ》処を蹌踉蹌踉《うろうろ》する。
三十五
「そうふらふらさしちゃ燈《あかり》が消えます。貸しなさい、私がその手燭《てしょく》を持とうで。」
「頼んます、はい、どうぞお前様《めえさま》持たっせえて、ついでにその法衣《ころも》着さっせえ姿から、光明|赫燿《かくやく》と願えてえだ。」
僧は燭を取って一足出たが、
「お爺さん、」
と呼んだのが、驚破《すわや》事ありげに聞えたので、手んぼうならぬ手を引込《ひっこ》め、不具《かたわ》の方と同一《おなじ》処で、掌《てのひら》をあけながら、据腰《すえごし》で顔を見上げる、と皺面《しわづら》ばかりが燭の影に真赤《まっか》になった。――この赤親仁と、青坊主が、廊下はずれに物言う状《さま》は、鬼が囁《ささや》くに異ならず。
「ええ、」
「どこか呻吟《うめ》くような声がするよ。」
「芸もねえ、威《おど》かしてどうさっせる。」
「聞きなさい、それ……」
「う、う、う、」
と厭《いや》な声。
「爺さん、お前が呻吟くのかい。」
「いんね、」
と変な顔色で、鼻をしかめ、
「ふん、難産の呻
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