そうにしたが、白地の浴衣を着てそこに立った私の姿を見ると、フト立停《たちどま》った美人があります。
扮装《みなり》なぞは気がつかず、洋傘《かさ》は持っていたようでしたっけ、それを翳《さ》していたか、畳んだのを支《つ》いていたか、判然《はっきり》しないが、ああ似たような、と思ったのは、その行方が分らんという一人。
トむこうでも莞爾《にっこり》しました……
そこへ笠を深くかぶった、草鞋穿《わらじば》きの、猟人体《かりゅうどてい》の大漢《おおおとこ》が、鉄砲《てっぽう》の銃先《つつさき》へ浅葱《あさぎ》の小旗を結えつけたのを肩にして、鉄の鎖をずらりと曳《ひ》いたのに、大熊を一頭、のさのさと曳いて出ました。
山を上に見て、正的《まとも》に町と町が附《くっ》ついた三辻《みつつじ》の、その附根《つけね》の処を、横に切って、左角の土蔵の前から、右の角が、菓子屋の、その葦簀《よしず》の張出《はりだし》まで、わずか二間ばかりの間《あい》を通ったんですから、のさりと行《ゆ》くのも、ほんのしばらく。
熊の背《せなか》が、彳《たたず》んだ婦人《おんな》の乳《ち》のあたりへ、黒雲のようにかかると、それにつれて、一所に横向きになって歩行《ある》き出しました。あとへぞろぞろ大勢|小児《こども》が……国では珍らしい獣《けもの》だからでしょう。
右の方へかくれたから、角へ出て見ようと、急足《いそぎあし》に出よう、とすると、馴《な》れない跛《びっこ》ですから、腕へ台についた杖を忘れて、躓《つまず》いて、のめったので、生爪《なまづめ》をはがしたのです。
しばらく立てませんでした。
かれこれして、出て見ると、もうどこへ行ったか影も形もない。
その後、旅行をして諸国を歩行《ある》くのに、越前の木《こ》の芽峠の麓《ふもと》で見かけた、炭を背負《しょ》った女だの、碓氷《うすい》を越す時汽車の窓からちらりと見ました、隧道《トンネル》を出て、衝《つ》と隧道を入る間の茶店に、うしろ向きの女《むすめ》だの、都《みやこ》では矢のように行過ぎる馬車の中などに、それか、と思うのは幾たびも見かけたんですが……その熊の時のほど、印象のよく明瞭に今まで残ってるのは無いのです。
内へ帰って、
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(美しき君の姿は、
熊に取られた。
町の角で、町の角で――
跛ひきひき追えど及ばぬ。)
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