です、兎でしょう。
 が、似た事のありますものです――その時は小狗《こいぬ》でした。鈴がついておりましたっけ。白垢《むく》の真白《まっしろ》なのが、ころころと仰向《あおむ》けに手をじゃれながら足許《あしもと》を転がって行《ゆ》きます。夢のようにそのあとへついて、やがて門札を見ると指した家で。
 まさか奥様《おくさん》に、とも言えませんから、主人に逢って、――意中を話しますと――
(夜中《やちゅう》何事です。人を馬鹿にした。奥は病気だからお目には懸《かか》れません。)
 と云って厭《いや》な顔をしました。夫人が評判の美人だけに、校長さんは大した嫉妬深いという事で。」

       三十

「叔母がつくづく意見をしました。(はじめから彼家《あすこ》へ行《ゆ》くと聞いたら遣《や》るのじゃなかった――黙っておいでだから何にも知らずに悪い事をしたよ。さきじゃ幼馴染《おさななじみ》だと思います、手毬唄を聞くなぞ、となおよくない、そんな事が世間へ通るかい、)とこうです。
 母親の友達を尋ねるに、色気の嫌疑はおかしい、と聞いて見ると、何《なあに》、女の児《こ》はませています、それに紅《あか》い手絡《てがら》で、美しい髪なぞ結って、容《かたち》づくっているから可《い》い姉さんだ、と幼心《おさなごころ》に思ったのが、二つ違い、一つ上、亡くなったのが二つ上で、その奥さんは一ツ上のだそうで、行方の知れないのは、分らないそうでした。
 事が面倒になりましてね、その夫人の親里から、叔母の家へ使《つかい》が来て、娘御は何も唄なんか御存じないそうで、ええ、世間体がございますから以来は、と苦り切って帰りました。
 勿論病気でも何でもなかったそうです。
 一月ばかり経《た》って、細かに、いろいろと手毬唄、子守唄、童《わらべ》唄なんぞ、百幾つというもの、綺麗に美しく、細々《こまごま》とかいた、文が来ました。
 しまいへ、紅《べに》で、
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――嫁入りの果敢《はか》なさを唄いしが唄の中にも沢山におわしまし候――
[#ここで字下げ終わり]
 と、だけ記してありました。……
 唯今《ただいま》も大切にして持ってはいますが、勿論、その中に、私の望みの、母の声のはありません。
 さあ、もう一人……行方の知れない方ですが……
 またこれが貴僧《あなた》、家を越したとか、遠国へ行ったとかいうのな
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