主《ていしゆ》が、むつくり頭《あたま》を上《あ》げて、
『まだ御寐《およ》りませんかな。』と言《い》ひ/\四五段《しごだん》上《のぼ》つた、中途《ちゆうと》の上下《うへした》で欄干《てすり》越《ごし》に顔《かほ》を合《あ》はせた。
『又《また》入《い》れ替《かは》つて出《で》てくれたのかね、あゝ言《い》つて呼《よ》んでるのは、』
『へい、否《いゝえ》、山深《やまふか》く参《まゐ》つたのが、近廻《ちかまは》りへ引上《ひきあ》げて来《き》たでござります。』
『まだ、知《し》れんのだね、あゝして呼立《よびた》てゝ居《ゐ》るのを見《み》ると。』
『へい、何《なに》しろ、早《は》や、山《やま》も谷《たに》も数《すう》が知《し》れん処《ところ》でござりますけにな。……』
と歎息《たんそく》を為《し》たが、面《つら》を振《ふ》つて、嚏《くしやみ》をした。
『しかし、あれでござりましよ。何分《なにぶん》夜《よ》が更《ふ》けましたで、道《みち》を教《をし》へますものも明方《あけがた》まで待《ま》ちませうし、又《また》……奥方様《おくがたさま》も、何《ど》の道《みち》お草臥《くたび》れでござりませうで、い
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