》つて、スーツと障子《しやうじ》を閉《し》めた。――夜《よ》が更《ふ》けて寒《さむ》からうと、深切《しんせつ》に為《し》たに違《ちがひ》ないが、未練《みれん》らしい諦《あきら》めろ、と愛想尽《あいさうつか》しを為《さ》れたやうで、赫《くわつ》と顔《かほ》が熱《あつ》くなる。
 背中《せなか》がぞつと寒《さむ》く成《な》る……背後《うしろ》を見《み》る、と床《とこ》の間《ま》に袖畳《そでだゝ》みをした女《をんな》の羽織《はおり》、わがねた扱帯《しごき》、何《なに》となく色《いろ》が冷《つめた》く成《な》つて紀念《かたみ》のやうに見《み》えて来《き》た、――持主《もちぬし》が亡《な》くなると、却《かへ》つてそんなものが、手《て》ん手《で》に活《い》きて来《き》たやうに思《おも》はれて、一寸《ちよいと》触《さは》るのも憚《はゞ》かられる。
 何処《どこ》か、しゆつ/\と風《かぜ》が通《とほ》る……

         十七

「うら悲《かな》しい、心細《こゝろぼそ》い、可厭《いや》な声《こゑ》で、
『お客様《きやくさま》あゝ、』
『奥様《おくさま》、』と呼《よ》ぶのが、山颪《やまおろし》の風
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