ちやう》ど……狐《きつね》の穴《あな》には灯《あかり》は点《つ》かぬが、猿《さる》の店《みせ》には燈《ともしび》の点《つ》く時分《じぶん》、何《なに》となく薄《うす》ら寒《さむ》い、其処等《そこら》の霞《かすみ》も、遠山《とほやま》の雪《ゆき》の影《かげ》が射《さ》すやうで、夕餉《ゆふげ》の煙《けむり》が物寂《ものさび》しう谷《たに》へ落《おち》る。五六軒《ごろくけん》の藁屋《わらや》ならび、中《なか》にも浅間《あさま》な掛小屋《かけこや》のやうな小店《こみせ》を開《あ》けて、穴《あな》から商売《しやうばい》をするやうに婆《ばあ》さんが一人《ひとり》戸《と》の外《そと》を透《す》かして居《ゐ》た。其《そ》の店《みせ》で獣《けもの》の皮《かは》だの、獅子頭《しゝがしら》、狐《きつね》猿《さる》の面《めん》、般若《はんにや》の面《めん》、二升樽《にしやうだる》ぐらゐな座頭《ざとう》の首《くび》、――いや其《それ》が白《しろ》い目《め》をぐるりと剥《む》いて、亀裂《ひゞ》の入《はい》つた壁《かべ》に仰向《あふむ》いた形《かたち》なんぞ余《あんま》り気味《きみ》の可《い》いものではなかつた。誰
前へ
次へ
全284ページ中70ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング