《い》ふ声《こゑ》を聞《き》きながら、積日《せきじつ》の辛労《しんらう》と安心《あんしん》した気抜《きぬ》けの所為《せゐ》で、其《その》まゝ前後不覚《ぜんごふかく》と成《な》つた。……
『や』
心着《こゝろづ》く、と雲《くも》を踏《ふ》んでるやうな危《あぶなつ》かしさ。夫婦《ふうふ》が活《い》きて再《ふたゝ》び天日《てんじつ》を仰《あふ》ぐのは、唯《たゞ》無事《ぶじ》に下《した》まで幾階《いくかい》の段《だん》を降《お》りる、其《それ》ばかり、と思《おも》ふと、昨夜《ゆふべ》にも似《に》ず、爪先《つまさき》が震《ふる》ふ、腰《こし》が、がくつく、血《ち》が凍《こほ》つて肉《にく》が硬《こは》ばる。
『気《き》を着《つ》けて、気《き》を着《つ》けて、危《あぶな》い。』と両方《りやうはう》の脚《あし》の指《ゆび》、白《しろ》いのと、男《をとこ》のと、十本《じふぽん》づゝを、ちら/\と一心不乱《いつしんふらん》に瞻《みつ》めながら、恰《あたか》も断崖《だんがい》を下《お》りるやう、天守《てんしゆ》の下《した》は地《ち》が矢《や》の如《ごと》く流《なが》るゝか、と見《み》えた。……
雪枝《
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