の鶏冠《とさか》の上《うへ》で、人一人《ひとひとり》立騒《たちさは》ぐ先刻《さつき》から、造着《つくりつ》けた躰《てい》にきよとんとして、爪立《つまだ》てた片脚《かたあし》を下《お》ろさうともしなかつた。
此《こ》の船《ふね》の中《なか》へ、どさりと落《おと》した。
女《をんな》の像《ざう》は胴《どう》の間《ま》へ仰向《あふむ》けに、肩《かた》が舷《ふなべり》にかゝつて、黒髪《くろかみ》は蘆《あし》に挟《はさ》まり、乳《ち》の下《した》から裾《すそ》へ掛《か》けて、薄衣《うすぎぬ》の如《ごと》く霞《かすみ》が靡《なび》けば、風《かぜ》もなしに柔《やはら》かな葉摺《はず》れの音《おと》がそよら/\。で、船《ふね》が一揺《ひとゆす》れ揺《ゆ》れると思《おも》ふと、有繋《さすが》に物駭《ものおどろ》きを為《し》たらしい、艫《とも》に居《ゐ》た五位鷺《ごゐさぎ》は、はらりと其《そ》の紫《むらさき》がゝつた薄黒《うすぐろ》い翼《つばさ》を開《ひら》いた。
開《ひら》いたが、飛《と》びはしない、で、ばさりと諸翼《もろつばさ》搏《はう》つと斉《ひと》しく、俯向《うつむ》けに頸《くび》を伸《の》
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