《おほき》な像《ざう》で、飯《めし》の時《とき》なんぞ、並《なら》んで坐《すは》る、と七才《なゝつ》の年《とし》の私《わたくし》の芥子坊主《けしばうず》より、づゝと上《うへ》に、髪《かみ》の垂《さが》つた島田《しまだ》の髷《まげ》が見《み》えたんです。衣服《きもの》は白無垢《しろむく》に、水浅黄《みづあさぎ》の襟《ゑり》を重《かさ》ねて、袖口《そでくち》と褄《つま》はづれは、矢張《やつぱり》白《しろ》に常夏《とこなつ》の花《はな》を散《ち》らした長襦袢《ながじゆばん》らしく出来《でき》て居《ゐ》て……其《それ》が上《うへ》から着《き》せたのではない。木彫《きぼり》に彩色《さいしき》を為《し》たんです。が、不思議《ふしぎ》なのは、其《そ》の白無垢《しろむく》、何《ど》うして置《お》いても些《ちつ》とでも塵埃《ほこり》が溜《たま》らず、虫《むし》も蠅《はい》も、遂《つい》ぞ集《たか》つたことが無《な》い。花畑《はなばたけ》へでも抱《だ》いて出《で》ると、綺麗《きれい》な蝶々《てふ/\》は、帯《おび》に来《き》て、留《とま》つたんです、最《も》う一《ひと》つ不思議《ふしぎ》なのは、立像《りつざう》に刻《きざ》んだのが、膝《ひざ》柔《やはら》かにすつと坐《すは》る。
袖《そで》は両方《りやうはう》から振《ふり》が合《あ》つて、乳《ちゝ》のあたりで、上下《うへした》に両手《りやうて》を重《かさ》ねたのが、ふつくりして、中《なか》に何《なに》か入《はい》つて居《ゐ》さうで、……駆《か》けて行《い》つて、
『姉《ねえ》さん、』と捉《つか》まつた時《とき》なぞ、肩《かた》が揺《ゆ》れると、ころりん、ころりんと其《それ》は実《じつ》に……何《なん》とも微妙《びめう》な音《ね》が為《し》て幽《かすか》に鳴《な》る、……父母《ふたおや》をはじめ、見《み》るほどのものは、何《なん》だらう何《なん》だらう、と言《い》ひ/\したが、指《ゆび》を折《を》らなくては分《わか》らないから、無論《むろん》開《あ》けては見《み》ず仕舞《じまひ》。
とう/\其《そ》の彫像《てうざう》を――何《なん》です――父《ちゝ》が暖炉《ストーブ》に燻《く》べて焼《や》いたまでも分《わか》らなかつたんです。
ちら/\雪《ゆき》の降《ふ》る晩方《ばんがた》でした。……私《わたくし》は、小児《こども》の群食《むらぐひ
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