たその媼巫女《うばいちこ》の、巫術《ふじゅつ》の修煉《しゅうれん》の一通りのものでない事は、読者にも、間もなく知れよう。
一体、孫八が名だそうだ、この爺さんは、つい今しがた、この奥州、関屋の在、旧――街道わきの古寺、西明寺《さいみょうじ》の、見る影もなく荒涼《あれすさ》んだ乱塔場で偶然|知己《ちかづき》になったので。それから――無住ではない、住職の和尚は、斎稼《ときかせ》ぎに出て留守だった――その寺へ伴われ、庫裡《くり》から、ここに准胝観世音《じゅんでいかんぜおん》の御堂《みどう》に詣でた。
いま、その御廚子《みずし》の前に、わずかに二三畳の破畳《やれだたみ》の上に居るのである。
さながら野晒《のざらし》の肋骨《あばらぼね》を組合わせたように、曝《さ》れ古びた、正面の閉した格子を透いて、向う峰の明神の森は小さな堂の屋根を包んで、街道を中に、石段は高いが、あたかも、ついそこに掛けた、一面墨絵の額、いや、ざっと彩った絵馬のごとく望まるる。
明神は女体におわす――爺さんがいうのであるが――それへ、詣ずるのは、石段の上の拝殿までだが、そこへ行《ゆ》くだけでさえ、清浄《しょうじょう》と斎
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