、明神の森へ通ったが、思う壺の巣が見出せない。
――村に猟夫《かりゅうど》が居る。猟夫《りょうし》といっても、南部の猪《いのしし》や、信州の熊に対するような、本職の、またぎ、おやじの雄《おす》ではない。のらくらものの隙稼《ひまかせ》ぎに鑑札だけは受けているのが、いよいよ獲ものに困《こう》ずると、極めて内証に、森の白鷺を盗み撃《うち》する。人目を憚《はばか》るのだから、忍びに忍んで潜入するのだが、いや、どうも、我折《がお》れた根気のいい事は、朝早くでも、晩方でも、日が暮れたりといえどもで、夏の末のある夜《よ》などは、ままよ宿鳥《ねどり》なりと、占めようと、右の猟夫《りょうし》が夜中|真暗《まっくら》な森を※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》ううちに、青白い光りものが、目一つの山の神のように動いて来るのに出撞《でっくわ》した。けだし光は旦那方の持つ懐中電燈であった。が、その時の鳥旦那の装《よそおい》は、杉の葉を、頭や、腰のまわりに結びつけた、面《つら》まで青い、森の悪魔のように見えて、猟夫を息を引いて驚倒せしめた。旦那の智恵によると、鳥に近づくには、季節によって、樹木と同化するのと、また鳥とほぼ服装の彩《いろどり》を同じゅうするのが妙術だという。
それだから一夜に事の起った時は、冬で雪が降っていたために、鳥博士は、帽子も、服も、靴まで真白《まっしろ》にしていた、と話すのであった。
(……?……)
ところで、鳥博士も、猟夫《りょうし》も、相互の仕事が、両方とも邪魔にはなるが、幾度《いくたび》も顔を合わせるから、逢えば自然と口を利く。「ここのおつかい姫は、何だな、馬鹿に恥かしがり屋で居るんだな。なかなか産む処を見せないが。」「旦那、とんでもねえ罰が当る。」「撃つやつとどうかな。」段々秋が深くなると、「これまでのは渡りものの、やす女だ、侍女《こしもと》も上等のになると、段々|勿体《もったい》をつけて奥の方へ引込むな。」従って森の奥になる。「今度見つけた巣は一番上等だ。鷺の中でも貴婦人となると、産は雪の中らしい。人目を忍ぶんだな。産屋《うぶや》も奥御殿という処だ。」「やれ、罰が当るてば。旦那。」「撃つやつとどうかな。」――雪の中に産育する、そんな鷺があるかどうかは知らない。爺さんの話のまま――猟
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