、しかし……と、そんな事を思って、早や壁も天井も雪の空のようになった停車場《ステエション》に、しばらく考えていましたが、余り不躾《ぶしつけ》だと己《おのれ》を制して、やっぱり一旦は宿に着く事にしましたのです。ですから、同列車の乗客の中《うち》で、停車場《ステエション》を離れましたのは、多分私が一番あとだったろうと思います。
 大雪です。
[#ここから3字下げ]
「雪やこんこ、
 霰《あられ》やこんこ。」
[#ここで字下げ終わり]
 大雪です――が、停車場《ステエション》前の茶店では、まだ小児たちの、そんな声が聞えていました。その時分は、山の根笹を吹くように、風もさらさらと鳴りましたっけ。町へ入るまでに日もとっぷりと暮果てますと、
[#ここから3字下げ]
「爺《じい》さイのウ婆《ばば》さイのウ、
 綿雪小雪が降るわいのウ、
 雨炉も小窓もしめさっし。」
[#ここで字下げ終わり]
 と寂しい侘《わび》しい唄の声――雪も、小児《こども》が爺婆《じいばあ》に化けました。――風も次第に、ごうごうと樹ながら山を揺《ゆす》りました。
 店屋さえもう戸が閉《しま》る。……旅籠屋も門を閉《とざ》しました
前へ 次へ
全17ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング