秀、秀。」
 予は頭《こうべ》より氷を浴ぶる心地したりき。折から風の音だもあらず、有明の燈影《とうえい》いと幽《かすか》に、ミリヤアドが目に光さしたり。
「秀さんのこと思わないで、勉強して、ね、上杉さん。」
 予は伏沈《ふししず》みぬ。
「かわいそう、かわいそうですけれども、私《わたくし》、こんな、こんな、病気になりました。仕方がない、あなたどうします。かわいそうで、安心して死なれません。苦しい、苦しい、かわいそうと思いませんか。私、あなたをかわいがりました。私を、私を、かわいそうとは思いませんか。」
 一しきり、また凩《こがらし》の戸にさわりて、ミリヤアドの顔|蒼《あお》ざめぬ。その眉|顰《ひそ》み、唇ふるいて、苦痛を忍び瞼《まぶた》を閉じしが、十分《じっぷん》時《じ》過ぎつと思うに、ふとまた明らかに※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》けり。
「肯《き》きませんか。あなた、私《わたくし》を何と思います。」
 と切なる声に怒《いかり》を帯びたる、りりしき眼の色恐しく、射竦《いすく》めらるる思《おもい》あり。
 枕に沈める横顔の、あわれに、貴く、うつくしく、気だかく、清き
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