児《こ》と一所に暮そうと思って、)
とばかりじゃあ、困ります。どんなになさいました処で、千ちゃんと御一所においで遊ばすわけにはまいりません。
(だから、此家《ここ》に居るんじゃあないか。)
その此家《ここ》は山ン中の尼寺じゃアありませんか。こんな処にあの児と二人おいで遊ばしては、世間で何と申しましょう。
(何といわれたって可《い》いんだから、)
それでは、あなた、旦那様に済みますまい。第一親御様なり、また、
(いいえ、それだからもう一生人づきあいをしないつもりで居る。私が分ってるから、可《い》いから、お前たちは帰っておしまい、可いから、分っているのだから、)
とそんな分らないことがありますか。ね、千ちゃん、いくら私たちが家来だからって、ものの理は理さ、あんまりな御無理だから種々《いろいろ》言うと、しまいにゃあただ、
(だって不可《いけな》いから、不可いから、)
とばかりおっしゃって果《はて》しがないの。もうこうなりゃどうしたってかまやしない。どんなことをしてなりと、お詫《わび》はあとですることと、無理やりにも力ずくで、こっちは五人、何の! あんな御新造様、腕ずくならこの蘭一人で沢山だわ。さあというと、屹《きっ》と遊ばして、
(何をおしだ、お前達、私を何だと思うのだい、)
とおっしゃるから、はあ、そりゃお邸の御新造様だと、そう申し上げると、
(女中たちが、そんな乱暴なことをして済みますか。良人《やど》なら知らぬこと、両親《ふたおや》にだって、指一本ささしはしない。)
あれで威勢がおあんなさるから、どうして、屹《きっ》と、おからだがすわると、すくんじまわあね。でもさ、そんな分らないことをおっしゃれば、もう御新造様でも何でもない。
(他人ならばうっちゃっておいておくれ。)
とこうでしょう。何てったって、とてもいうことをお肯《き》き遊ばさないお気なんだから仕ようがない。がそれで世の中が済むのじゃあないんだもの。
じゃあ、旦那様がお迎《むかい》にお出で遊ばしたら、
(それでも帰らないよ。)
無理にも連れようと遊ばしたら、
(そうすりゃ御身分にかかわるばかりだもの。)
もうどう遊ばしたというのだろう。それじゃあ、旦那様と千ちゃんと、どちらが大事でございますって、この上のいいようがないから聞いたの。そうするとお前様《まえさん》、
(ええ、旦那様は私が居なくっても可《い》いけれど、千ちゃんは一所に居てあげないと死んでおしまいだから可哀相《かわいそう》だもの。)
とこれじゃあもう何にもいうことはありませんわ。ここなの、ここなんだがね、千ちゃん、一体こりゃ、ま、お前さんどうしたというのだね。」
女はいいかけてまた予が顔を瞻《みまも》りぬ。予はほと一|呼吸《いき》ついたり。
「摩耶さんが知っておいでだよ、私は何にも分らないんだ。」
「え、分らない。お前さん、まあ、だって御自分のことが御自分に。」
予は何とかいうべき。
「お前、それが分る位なら、何もこんなにゃなりやしない。」
「ああれ、またここでもこうだもの。」
五
女はまたあらためて、
「一体詮じ詰めた処が千ちゃん、御新造様と一所に居てどうしようというのだね。」
さることはわれも知らず。
「別にどうってことはないんだ。」
「まあ。」
「別に、」
「まあさ、御飯をたいて。」
「詰《つま》らないことを。」
「まあさ、御飯をたいて、食べて、それから、」
「話をしてるよ。」
「話をして、それから。」
「知らない。」
「まあ、それから。」
「寝っちまうさ。」
「串戯《じょうだん》じゃあないよ。そしてお前様《まえさん》、いつまでそうしているつもりなの。」
「死ぬまで。」
「え、死ぬまで。もう大抵じゃあないのね。まあ、そんならそうとして、話は早い方が可《い》いが、千ちゃん、お聞き。私だって何も彼家《あすこ》へは御譜代というわけじゃあなしさ、早い話が、お前さんの母様《おっかさん》とも私あ知合だったし、そりゃ内の旦那より、お前さんの方が私ゃまったくの所、可愛いよ。可いかね。
ところでいくらお前さんが可愛い顔をしてるたって、情婦《いろ》を拵《こしら》えたって、何もこの年紀《とし》をしてものの道理がさ、私がやっかむにも当らずか、打明けた所、お前さん、御新造様と出来たのかね。え、千ちゃん、出来たのならそのつもりさ。お楽《たのし》み! てなことで引退《ひきさが》ろうじゃあないか。不思議で堪《たま》らないから聞くんだが、どうだねえ、出来たわけかね。」
「何がさ。」
「何がじゃあないよ、お前さん出来たのなら出来たで可いじゃあないか、いっておしまいよ。」
「だって、出来たって分らないもの。」
「むむ、どうもこれじゃあ拵えようという柄《がら》じゃあないのね。いえね、何も忠義だてを
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