のばして、口を結んだ顔は、灯の片影《かたかげ》になって、一人すやすやと寝て居るのを、……一目見ると、それは自分であったので、天窓《あたま》から氷を浴びたように筋《すじ》がしまった。
ひたと冷《つめた》い汗になって、眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》き、殺されるのであろうと思いながら、すかして蚊帳の外を見たが、墓原をさまよって、乱橋から由井ヶ浜をうろついて死にそうになって帰って来た自分の姿は、立って、蚊帳に縋《すが》っては居なかった。
もののけはいを、夜毎《よごと》の心持《こころもち》で考えると、まだ三時には間《ま》があったので、最《も》う最うあたまがおもいから、そのまま黙って、母上の御名《おんな》を念じた。――人は恁《こ》ういうことから気が違うのであろう。
底本:「書物の王国11 分身」国書刊行会
1999(平成11)年1月22日初版第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第四卷」岩波書店
1941(昭和16)年3月15日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2006年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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