事《こと》をはべん[#「はべん」に丸傍点]、はべん[#「はべん」に丸傍点]をふかし[#「ふかし」に丸傍点]と言《い》ふ。即《すなは》ち紅白《こうはく》のはべんなり。皆《みな》板《いた》についたまゝを半月《はんげつ》に揃《そろ》へて鉢肴《はちざかな》に裝《も》る。逢《あ》ひたさに用《よう》なき門《かど》を二度《にど》三度《さんど》、と言《い》ふ心意氣《こゝろいき》にて、ソツと白壁《しろかべ》、黒塀《くろべい》について通《とほ》るものを、「あいつ板附《いたつき》はべん」と言《い》ふ洒落《しやれ》あり、古《ふる》い洒落《しやれ》なるべし。
 お汁《つゆ》の實《み》の少《すく》ないのを、百間堀《ひやくけんぼり》に霰《あられ》と言《い》ふ。田螺《たにし》と思《おも》つたら目球《めだま》だと、同《おな》じ格《かく》なり。百間堀《ひやくけんぼり》は城《しろ》の堀《ほり》にて、意氣《いき》も不意氣《ぶいき》も、身投《みなげ》の多《おほ》き、晝《ひる》も淋《さび》しき所《ところ》なりしが、埋立《うめた》てたれば今《いま》はなし。電車《でんしや》が通《とほ》る。滿員《まんゐん》だらう。心中《しんぢう》したのがうるさかりなむ。
 春雨《はるさめ》のしめやかに、謎《なぞ》を一《ひと》つ。……何枚《なんまい》衣《き》ものを重《かさ》ねても、お役《やく》に立《た》つは膚《はだ》ばかり、何《なに》?……筍《たけのこ》。
 然《しか》るべき民謠集《みんえうしふ》の中《なか》に、金澤《かなざは》の童謠《どうえう》を記《しる》して(鳶《とんび》のおしろ[#「おしろ」に丸傍点]に鷹匠《たかじよ》が居《ゐ》る、あつち向《む》いて見《み》さい、こつち向《む》いて見《み》さい)としたるは可《よ》きが、おしろ[#「おしろ」に丸傍点]に註《ちう》して(お城《しろ》)としたには吃驚《びつくり》なり。おしろ[#「おしろ」に丸傍点]は後《うしろ》のなまりと知《し》るべし。此《こ》の類《るゐ》あまたあり。茸狩《たけが》りの唄《うた》に、(松《まつ》みゝ、松《まつ》みゝ、親《おや》に孝行《かうかう》なもんに當《あた》れ。)此《こ》の松《まつ》みゝに又《また》註《ちう》して、松茸《まつたけ》とあり。飛《と》んだ間違《まちがひ》なり。金澤《かなざは》にて言《い》ふ松《まつ》みゝは初茸[#「初茸」に白丸傍点]なり。此《こ》の茸《きのこ》は、松《まつ》美《うつく》しく草《くさ》淺《あさ》き所《ところ》にあれば子供《こども》にも獲《え》らるべし。(つくしん坊《ばう》めつかりこ)ぐらゐな子供《こども》に、何處《どこ》だつて松茸《まつたけ》は取《と》れはしない。一體《いつたい》童謠《どうえう》を收録《しうろく》するのに、なまりを正《たゞ》したり、當推量《あてずゐりやう》の註釋《ちうしやく》は大《だい》の禁物《きんもつ》なり。
 鬼《おに》ごつこの時《とき》、鬼《おに》ぎめの唄《うた》に、……(あてこに、こてこに、いけ[#「いけ」に丸傍点]の縁《ふち》に茶碗《ちやわん》を置《お》いて、危《あぶな》いことぢやつた。)同《おな》じ民謠集《みんえうしふ》に、此《こ》のいけ[#「いけ」に丸傍点]に(池《いけ》)の字《じ》を當《あ》ててあり。あの土地《とち》にて言《い》ふいけ[#「いけ」に丸傍点]は井戸《ゐど》なり。井戸《ゐど》のふちに茶碗《ちやわん》ゆゑ、けんのんなるべし。(かしや[#「かしや」に丸傍点]、かなざもの[#「かなざもの」に丸傍点]、しんたてまつる[#「しんたてまつる」に丸傍点]云々《うんぬん》)これは北海道《ほくかいだう》の僻地《へきち》の俚謠《りえう》なり。其處《そこ》には、金澤《かなざは》の人《ひと》多人數《たにんずう》、移住《いぢう》したるゆゑ、故郷《こきやう》にて、(加州金澤の新堅町の[#「加州金澤の新堅町の」に白丸傍点]云々《うんぬん》)と云《い》ふのが、次第《しだい》になまりて(かしや、かなざものしんたてまつる。)知《し》るべし、民謠《みんえう》に註《ちう》の愈々《いよ/\》不可《ふか》なること。
 新堅町《しんたてまち》、犀川《さいがは》の岸《きし》にあり。こゝに珍《めづら》しき町《まち》の名《な》に、大衆免《だいじめ》、木《き》の新保《しんぽ》、柿《かき》の木《き》畠《ばたけ》、油車《あぶらぐるま》、目細《めぼその》小路《せうぢ》、四這坂《よつばひざか》。例《れい》の公園《こうゑん》に上《のぼ》る坂《さか》を尻垂坂《しりたれざか》は何《どう》した事《こと》? 母衣町《ほろまち》は、十二階邊《じふにかいへん》と言《い》ふ意味《いみ》に通《かよ》ひしが今《いま》は然《しか》らざる也《なり》。――六斗林《ろくとばやし》は筍《たけのこ》が名物《めいぶつ》。目黒《めぐろ》の秋刀魚《さんま
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