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としたるもの、拙《つたな》けれども殆《ほとん》ど實境《じつきやう》也《なり》。
化《ば》かすのは狐《きつね》、化《ば》けるのは狸《たぬき》、貉《むじな》。狐《きつね》狸《たぬき》より貉《むじな》の化《ば》ける話《はなし》多《おほ》し。
三冬《さんとう》を蟄《ちつ》すれば、天狗《てんぐ》恐《おそ》ろし。北海《ほくかい》の荒磯《あらいそ》、金石《かないは》、大野《おほの》の濱《はま》、轟々《ぐわう/\》と鳴《な》りとゞろく音《おと》、夜毎《よごと》襖《ふすま》に響《ひゞ》く。雪《ゆき》深《ふか》くふと寂寞《せきばく》たる時《とき》、不思議《ふしぎ》なる笛《ふえ》太鼓《たいこ》、鼓《つゞみ》の音《おと》あり、山颪《やまおろし》にのつてトトンヒユーときこゆるかとすれば、忽《たちま》ち颯《さつ》と遠《とほ》く成《な》る。天狗《てんぐ》のお囃子《はやし》と云《い》ふ。能樂《のうがく》の常《つね》に盛《さかん》なる國《くに》なればなるべし。本所《ほんじよ》の狸囃子《たぬきばやし》と、遠《とほ》き縁者《えんじや》と聞《き》く。
豆《まめ》の餅《もち》、草餅《くさもち》、砂糖餅《さたうもち》、昆布《こんぶ》を切込《きりこ》みたるなど色々《いろ/\》の餅《もち》を搗《つ》き、一番《いちばん》あとの臼《うす》をトンと搗《つ》く時《とき》、千貫《せんぐわん》萬貫《まんぐわん》、萬々貫《まん/\ぐわん》、と哄《どつ》と喝采《はや》して、恁《かく》て市《いち》は榮《さか》ゆるなりけり。
榧《かや》の實《み》、澁《しぶ》く侘《わび》し。子供《こども》のふだんには、大抵《たいてい》柑子《かうじ》なり。蜜柑《みかん》たつとし。輪切《わぎ》りにして鉢《はち》ものの料理《れうり》につけ合《あ》はせる。淺草海苔《あさくさのり》を一|枚《まい》づゝ賣《う》る。
上丸《じやうまる》、上々丸《じやう/\まる》など稱《とな》へて胡桃《くるみ》いつもあり。一寸《ちよつと》煎《い》つて、飴《あめ》にて煮《に》る、これは甘《うま》い。
蓮根《はす》、蓮根《はす》とは言《い》はず、蓮根《れんこん》とばかり稱《とな》ふ、味《あぢ》よし、柔《やはら》かにして東京《とうきやう》の所謂《いはゆる》餅蓮根《もちばす》なり。郊外《かうぐわい》は南北《なんぼく》凡《およ》そ皆《みな》蓮池《はすいけ》にて、花《はな》開
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