》ツ三《み》ツは手《て》に提《さ》げながら、細《ほそ》くとほるふしにて、切籠《きりこ》ゥ行燈切籠《あんどんきりこ》――と賣《う》る、町《まち》の遠《とほ》くよりきこゆるぞかし。
 氷々《こほり/\》、雪《ゆき》の氷《こほり》と、こも俵《だはら》に包《つゝ》みて賣《う》り歩《ある》くは雪《ゆき》をかこへるものなり。鋸《のこぎり》にてザク/\と切《き》つて寄越《よこ》す。日盛《ひざかり》に、町《まち》を呼《よ》びあるくは、女《をんな》や兒《こ》たちの小遣取《こづかひとり》なり。夜店《よみせ》のさかり場《ば》にては、屈竟《くつきやう》な若《わか》い者《もの》が、お祭騷《まつりさわ》ぎにて賣《う》る。土地《とち》の俳優《やくしや》の白粉《おしろい》の顏《かほ》にて出《で》た事《こと》あり。屋根《やね》より高《たか》い大行燈《おほあんどう》を立《た》て、白雪《しらゆき》の山《やま》を積《つ》み、臺《だい》の上《うへ》に立《た》つて、やあ、がばり/\がばり/\と喚《わめ》く。行燈《あんどう》にも、白山氷《はくさんこほり》がばり/\と遣《や》る。はじめ、がばり[#「がばり」に傍点]/\は雪《ゆき》の安賣《やすうり》に限《かぎ》りしなるが、次第《しだい》に何事《なにごと》にも用《もち》ゐられて、投賣《なげうり》、棄賣《すてう》り、見切賣《みきりう》りの場合《ばあひ》となると、瀬戸物屋《せとものや》、呉服店《ごふくみせ》、札《ふだ》をたてて、がばり/\。愚案《ぐあん》ずるに、がばりは雪《ゆき》を切《き》る音《おと》なるべし。
 水玉草《みづたまさう》を賣《う》る、涼《すゞ》し。
 夜店《よみせ》に、大道《だいだう》にて、鰌《どぢやう》を割《さ》き、串《くし》にさし、付燒《つけやき》にして賣《う》るを關東燒《くわんとうやき》とて行《おこな》はる。蒲燒《かばやき》の意味《いみ》なるべし。
 四萬六千日《しまんろくせんにち》は八月《はちぐわつ》なり。さしもの暑《あつ》さも、此《こ》の夜《よ》のころ、觀音《くわんのん》の山《やま》より涼《すゞ》しき風《かぜ》そよ/\と訪《おと》づるゝ、可懷《なつか》し。
 唐黍《たうもろこし》を燒《や》く香《にほひ》立《た》つ也《なり》。
 秋《あき》は茸《きのこ》こそ面白《おもしろ》けれ。松茸《まつたけ》、初茸《はつたけ》、木茸《きたけ》、岩茸《いはたけ》
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