ゃ》なもので、小鯛《こだい》には骨が多い、柳鰈《やなぎがれい》の御馳走《ごちそう》を思出すと、ああ、酒と煙草《たばこ》は、さるにても極りが悪い。
 其角《きかく》句あり。――もどかしや雛に対して小盃《こさかずき》。
 あの白酒を、ちょっと唇につけた処《ところ》は、乳《ちち》の味がしはしないかと思う……ちょっとですよ。
 ――構わず注《つ》ぎねえ。
 なんかで、がぶがぶ遣《や》っちゃ話にならない。
 金岡《かなおか》の萩《はぎ》の馬、飛騨《ひだ》の工匠《たくみ》の竜《りゅう》までもなく、電燈を消して、雪洞《ぼんぼり》の影に見参らす雛の顔は、実際、唯《と》瞻《み》れば瞬《またた》きして、やがて打微笑《うちほほえ》む。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある。――壇の下に寝ていると、雛の話声《はなしごえ》が聞える、と小児《こども》の時に聞いたのを、私は今も疑いたくない。
 で、家中《かちゅう》が寝静まると、何処《どこ》か一ケ所、小屏風《こびょうぶ》が、鶴の羽に桃を敷いて、すッと廻ろうも知れぬ。……御睦《おんむつ》ましさにつけても、壇に、余り人形の数の多いのは風情《ふぜい》がなかろう。
 但し
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