みつだな》の堆《うずたか》きは、われら町家《ちょうか》の雛壇《ひなだん》には些《ち》と打上《うちあが》り過ぎるであろう。箪笥《たんす》、長持《ながもち》、挟箱《はさみばこ》、金高蒔絵《きんたかまきえ》、銀金具《ぎんかなぐ》。小指ぐらいな抽斗《ひきだし》を開けると、中が紅《あか》いのも美しい。一双《いっそう》の屏風《びょうぶ》の絵は、むら消えの雪の小松に丹頂《たんちょう》の鶴、雛鶴《ひなづる》。一つは曲水《きょくすい》の群青《ぐんじょう》に桃の盃《さかずき》、絵雪洞《えぼんぼり》、桃のような灯《ひ》を点《とも》す。……ちょっと風情《ふぜい》に舞扇《まいおおぎ》。
 白酒《しろざけ》入れたは、ぎやまんに、柳さくらの透模様《すきもよう》。さて、お肴《さかな》には何よけん、あわび、さだえか、かせよけん、と栄螺《さざえ》蛤《はまぐり》が唄になり、皿の縁に浮いて出る。白魚《しらうお》よし、小鯛《こだい》よし、緋《ひ》の毛氈《もうせん》に肖《に》つかわしいのは柳鰈《やなぎがれい》というのがある。業平蜆《なりひらしじみ》、小町蝦《こまちえび》、飯鮹《いいだこ》も憎からず。どれも小さなほど愛らしく、器《
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