たはむ》れに箱根々々《はこね/\》と呼《よ》びしが、人《ひと》あり、櫻山《さくらやま》に向《むか》ひ合《あ》へる池子山《いけごやま》の奧《おく》、神武寺《じんむじ》の邊《あたり》より、萬兩《まんりやう》の實《み》の房《ふさ》やかに附《つ》いたるを一本《ひともと》得《え》て歸《かへ》りて、此草《このくさ》幹《みき》の高《たか》きこと一|丈《ぢやう》、蓋《けだ》し百年《ハコネ》以來《いらい》のもの也《なり》と誇《ほこ》る、其《そ》のをのこ國訛《くになまり》にや、百年《ひやくねん》といふが百年々々《ハコネ/\》と聞《きこ》ゆるもをかしく今《いま》は名所《めいしよ》となりぬ。
 嗚呼《をこ》なる哉《かな》、吾等《われら》晝寢《ひるね》してもあるべきを、かくてつれ/″\を過《すご》すにこそ。
 臺所《だいどころ》より富士《ふじ》見《み》ゆ。露《つゆ》の木槿《むくげ》ほの紅《あか》う、茅屋《かやや》のあちこち黒《くろ》き中《なか》に、狐火《きつねび》かとばかり灯《ともしび》の色《いろ》沈《しづ》みて、池子《いけご》の麓《ふもと》砧《きぬた》打《う》つ折《をり》から、妹《いも》がり行《ゆ》くらん遠畦
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