》したる岡《をか》の上《うへ》に御堂《みだう》あり、觀世音《くわんぜおん》おはします、寺《てら》の名《な》を觀藏院《くわんざうゐん》といふ。崖《がけ》の下《した》、葎《むぐら》生《お》ひ茂《しげ》りて、星影《ほしかげ》の晝《ひる》も見《み》ゆべくおどろ/\しければ、同宿《どうしゆく》の人《ひと》たち渾名《あだな》して龍《りう》ヶ谷《たに》といふ。
店借《たながり》の此《こ》の住居《すまひ》は、船越街道《ふなこしかいだう》より右《みぎ》にだら/\のぼりの處《ところ》にあれば、櫻《さくら》ヶ岡《をか》といふべくや。
これより、「爺《ぢゞ》や茶屋《ぢやや》」「箱根《はこね》」「原口《はらぐち》の瀧《たき》」「南瓜軒《なんくわけん》」「下櫻山《しもさくらやま》」を經《へ》て、倒富士《さかさふじ》田越橋《たごえばし》の袂《たもと》を行《ゆ》けば、直《すぐ》にボートを見《み》、眞帆《まほ》片帆《かたほ》を望《のぞ》む。
爺《ぢゞ》や茶屋《ぢやや》は、翁《おきな》ひとり居《ゐ》て、燒酎《せうちう》、油《あぶら》、蚊遣《かやり》の類《るゐ》を鬻《ひさ》ぐ、故《ゆゑ》に云《い》ふ。
原口《はらぐ
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