のと、目前《めさき》を塞《ふさ》いだ墨染《すみぞめ》に、一天《いってん》する墨《すみ》を流すかと、袖《そで》は障子を包んだのである。
二十
「堂の前を左に切れると、空へ抜いた隧道《トンネル》のように、両端《りょうはし》から突出《つきで》ました巌《いわ》の間、樹立《こだち》を潜《くぐ》って、裏山へかかるであります。
両方|谷《たに》、海の方《かた》は、山が切れて、真中《まんなか》の路《みち》を汽車が通る。一方は一谷《ひとたに》落ちて、それからそれへ、山また山、次第に峰が重なって、段々|雲《くも》霧《きり》が深くなります。処々《ところどころ》、山の尾が樹の根のように集《あつま》って、広々とした青田《あおた》を抱《かか》えた処《ところ》もあり、炭焼小屋を包んだ処もございます。
其処《そこ》で、この山伝いの路は、崕《がけ》の上を高い堤防《つつみ》を行《ゆ》く形、時々、島や白帆《しらほ》の見晴しへ出ますばかり、あとは生繁《おいしげ》って真暗《まっくら》で、今時は、さまでにもありませぬが、草が繁りますと、分けずには通られません。
谷には鶯《うぐいす》、峰には目白《めじろ》四
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