にちらちらと霞《かすみ》を引いたかと思う、これに眩《めくるめ》くばかりになって、思わずちょっと会釈《えしゃく》をする。
 向うも、伏目《ふしめ》に俯向《うつむ》いたと思うと、リンリンと貴下《あなた》、高く響いたのは電話の報知《しらせ》じゃ。
 これを待っていたでございますな。
 すぐに電話口へ入って、姿は隠れましたが、浅間《あさま》ゆえ、よく聞える。
(はあ、私《わたし》。あなた、余《あんま》りですわ。余《あんま》りですわ。どうして来て下さらないの。怨《うら》んでいますよ。あの、あなた、夜《よ》も寝られません。はあ、夜中に汽車のつくわけはありませんけれども、それでも今にもね、来て下さりはしないかと思って。
 私の方はね、もうね、ちょいと……どんなに離れておりましても、あなたの声はね、電話でなくっても聞えます。あなたには通じますまい。
 どうせ、そうですよ。それだって、こんなにお待ち申している、私のためですもの……気をかねてばかりいらっしゃらなくても宜《よろ》しいわ。些《ちっ》とは不義理、否《いえ》、父さんやお母さんに、不義理と言うこともありませんけれど、ね、私は生命《いのち》かけて、き
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