でありますに。この久能谷《くのや》の方は、些《ちっ》と足場《あしば》が遠くなりますから、すべて、見得装飾《みえかざり》を向うへ持って参って、小松橋《こまつばし》が本宅のようになっております。
 そこで、去年の夏頃は、御新姐《ごしんぞ》。申すまでもない、そちらにいたでございます。
 でその――小松橋を渡ると、急に遠目金《とおめがね》を覗《のぞ》くような円《まる》い海の硝子《がらす》へ――ぱっと一杯に映《うつ》って、とき色の服の姿が浪《なみ》の青いのと、巓《いただき》の白い中へ、薄い虹《にじ》がかかったように、美しく靡《なび》いて来たのがある。……
 と言われたは、即《すなわ》ち、それ、玉脇の……でございます。
 しかし、その時はまだ誰だか本人も御存じなし、聞く方でも分りませんので。どういう別嬪《べっぴん》でありました、と串戯《じょうだん》にな、団扇《うちわ》で煽《あお》ぎながら聞いたでございます。
 客人は海水帽を脱いだばかり、まだ部屋へも上《あが》らず、その縁側《えんがわ》に腰をかけながら。
(誰方《どなた》か、尊《とうと》いくらいでした。)」

       十三

「大分《だいぶ》
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