、いうことは素気《そっけ》ないが、話を振切《ふりき》るつもりではなさそうで、肩を一《ひと》ツ揺《ゆす》りながら、鍬《くわ》の柄《え》を返して地《つち》についてこっちの顔を見た。
「そうかい、いや、お邪魔をしたね、」
これを機《しお》に、分れようとすると、片手で顱巻《はちまき》を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《かなぐ》り取って、
「どうしまして、邪魔も何もござりましねえ。はい、お前様《まえさま》、何か尋《たず》ねごとさっしゃるかね。彼処《あすこ》の家《うち》は表門《おもてもん》さ閉《しま》っておりませども、貸家《かしや》ではねえが……」
その手拭《てぬぐい》を、裾《すそ》と一緒に、下からつまみ上げるように帯へ挟《はさ》んで、指を腰の両提《ふたつさ》げに突込《つきこ》んだ。これでは直ぐにも通れない。
「何ね、詰《つま》らん事さ。」
「はいい?」
「お爺さんが彼家《あすこ》の人ならそう言って行《ゆ》こうと思って、別に貸家を捜しているわけではないのだよ。奥の方で少《わか》い婦人《おんな》の声がしたもの、空家でないのは分ってるが、」
「そうかね、女中衆《じょちゅうしゅう》も二
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