聞くでございますよ。」
「そうしたもんです。」
「ははは、如何《いか》にも、」
 と言ってちょっと言葉が途切《とぎ》れる。
 出家の言《ことば》は、聊《いささ》か寄附金の勧化《かんげ》のように聞えたので、少し気になったが、煙草《たばこ》の灰を落そうとして目に留《と》まった火入《ひいれ》の、いぶりくすぶった色あい、マッチの燃《もえ》さしの突込《つッこ》み加減《かげん》。巣鴨辺《すがもへん》に弥勒《みろく》の出世を待っている、真宗大学《しんしゅうだいがく》の寄宿舎に似て、余り世帯気《しょたいげ》がありそうもない処《ところ》は、大《おおい》に胸襟《きょうきん》を開いてしかるべく、勝手に見て取った。
 そこでまた清々《すがすが》しく一吸《ひとすい》して、山の端《は》の煙を吐くこと、遠見《とおみ》の鉄拐《てっかい》の如く、
「夏はさぞ涼《すずし》いでしょう。」
「とんと暑さ知らずでござる。御堂《おどう》は申すまでもありません、下の仮庵室《かりあんじつ》なども至極《しごく》その涼《すずし》いので、ほんの草葺《くさぶき》でありますが、些《ち》と御帰りがけにお立寄《たちよ》り、御休息なさいまし。木葉《
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