ゑ》に春興たり。なほ天堂に於ける天女《エンゼル》にして、もしその面貌醜ならむか、濁世《だくせい》の悪魔《サタン》が花顔雪膚《くわがんせつぷ》に化したるものに、嗜好《しかう》の及ばざるや、甚《はなは》だ遠し。
希《こひねがは》くば、満天下の妙齢女子、卿等《けいら》務めて美人たれ。其意《そのこゝろ》の美をいふにあらず、肉と皮との美ならむことを、熱心に、忠実に、汲々《きふ/\》として勤めて時のなほ足らざるを憾《うらみ》とせよ。読書、習字、算術等、一切《すべて》の科学何かある、唯《たゞ》紅粉粧飾《こうふんさうしよく》の余暇に於て学ばむのみ。琴や、歌や、吾《われ》はた虫と、鳥と、水の音と、風の声とにこれを聞く、強《しひ》て卿等を労せざるなり。
裁縫は知らざるも、庖丁《はうちやう》を学ばざるも、卿等が其美を以てすれば、天下にまた無き無上権を有して、抜山蓋世《ばつざんがいせ》の英雄をすら、掌中に籠《ろう》するならずや、百万の敵も恐るゝに足らず、恐るべきは一婦人《いつぷじん》といふならずや、そも/\何を苦しんでか、紅粉を措《お》いてあくせくするぞ。
あはれ願《ねがは》くは巧言、令色、媚《こ》びて
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