》れた家《いへ》の中《なか》を行《ゆ》くやうな、傘《かさ》さした女中《ぢよちう》の斜《なゝめ》な袖《そで》も、振事《ふりごと》のやうで姿《すがた》がいゝ。
 ――湯《ゆ》はきび/\と熱《あつ》かつた。立《た》つと首《くび》ツたけある。誰《たれ》の?……知《し》れた事《こと》拙者《せつしや》のである。處《ところ》で、此《こ》のくらゐ熱《あつ》い奴《やつ》を、と顏《かほ》をざぶ/\と冷水《れいすゐ》で洗《あら》ひながら腹《はら》の中《なか》で加減《かげん》して、やがて、湯《ゆ》を出《で》る、ともう雨《あめ》は霽《あが》つた。持《もち》おもりのする番傘《ばんがさ》に、片手腕《かたてうで》まくりがしたいほど、身《み》のほてりに夜風《よかぜ》の冷《つめた》い快《こゝろよ》さは、横町《よこちやう》の錢湯《せんたう》から我家《わがや》へ歸《かへ》る趣《おもむき》がある。但《たゞ》往交《ゆきか》ふ人々《ひと/″\》は、皆《みな》名所繪《めいしよゑ》の風情《ふぜい》があつて、中《なか》には塒《ねぐら》に立迷《たちまよ》ふ旅商人《たびあきうど》の状《さま》も見《み》えた。
 並《なら》んだ膳《ぜん》は、土
前へ 次へ
全28ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング