が、一面《いちめん》の雜草《ざつさう》で、遠《とほ》くに小《ちひ》さく、壞《こは》れた四阿《あづまや》らしいものの屋根《やね》が見《み》える。日《ひ》に水《みづ》の影《かげ》もさゝぬのに、其《そ》の四阿《あづまや》をさがりに、二三輪《にさんりん》、眞紫《まむらさき》の菖蒲《あやめ》が大《おほき》くぱつと咲《さ》いて、縋《すが》つたやうに、倒《たふ》れかゝつた竹《たけ》の棹《さを》も、池《いけ》に小船《こぶね》に棹《さをさ》したやうに面影《おもかげ》に立《た》つたのである。
此《こ》の時《とき》の旅《たび》に、色彩《いろ》を刻《きざ》んで忘《わす》れないのは、武庫川《むこがは》を過《す》ぎた生瀬《なませ》の停車場《ていしやぢやう》近《ちか》く、向《むか》う上《あが》りの徑《こみち》に、じり/\と蕊《しん》に香《にほひ》を立《た》てて咲揃《さきそろ》つた眞晝《まひる》の芍藥《しやくやく》と、横雲《よこぐも》を眞黒《まつくろ》に、嶺《みね》が颯《さつ》と暗《くら》かつた、夜久野《やくの》の山《やま》の薄墨《うすずみ》の窓《まど》近《ちか》く、草《くさ》に咲《さ》いた姫薊《ひめあざみ》の紅《
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