はせて見送《みおく》つた。おなじやうに、或《あるひ》は傾《かたむ》き、また俯向《うつむ》き、さて笛《ふえ》を仰《あふ》いで吹《ふ》いた、が、やがて、來《き》た道《みち》を半《なか》ば、あとへ引返《ひきかへ》した處《ところ》で、更《あらた》めて乘《の》つかる如《ごと》く下駄《げた》を留《とゞ》めると、一方《いつぱう》、鎭守《ちんじゆ》の社《やしろ》の前《まへ》で、ついた杖《つゑ》を、丁《ちやう》と小脇《こわき》に引《ひき》そばめて上《あ》げつゝ、高々《たか/″\》と仰向《あふむ》いた、さみしい大《おほき》な頭《あたま》ばかり、屋根《やね》を覗《のぞ》く來日《くるひ》ヶ峰《みね》の一處《ひとところ》を黒《くろ》く抽《ぬ》いて、影法師《かげぼふし》を前《まへ》に落《おと》して、高《たか》らかに笛《ふえ》を鳴《な》らした。
 ――きよきよらツ、きよツ/\きよツ!
 八千八谷《はつせんやたに》を流《なが》るゝ、圓山川《まるやまがは》とともに、八千八聲《はつせんやこゑ》と稱《とな》ふる杜鵑《ほとゝぎす》は、ともに此地《このち》の名物《めいぶつ》である。それも昨夜《さくや》の按摩《あんま》が話《はな
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