い》を見《み》ると同時《どうじ》であつた。
地方《ちはう》は風物《ふうぶつ》に變化《へんくわ》が少《すくな》い。わけて唯《たゞ》一年《いちねん》、もの凄《すご》いやうに思《おも》ふのは、月《つき》は同《おな》じ月《つき》、日《ひ》はたゞ前後《ぜんご》して、――谿川《たにがは》に倒《たふ》れかゝつたのも殆《ほとん》ど同《おな》じ時刻《じこく》である。娘《むすめ》も其處《そこ》に按摩《あんま》も彼處《かしこ》に――
其《そ》の大地震《おほぢしん》を、あの時《とき》既《すで》に、不氣味《ぶきみ》に按摩《あんま》は豫覺《よかく》したるにあらざるか。然《しか》らば八千八聲《はつせんやこゑ》を泣《な》きつゝも、生命《せいめい》だけは助《たす》かつたらう。衣《きぬ》を洗《あら》ひし娘《むすめ》も、水《みづ》に肌《はだ》は焦《こが》すまい。
當時《たうじ》寫眞《しやしん》を見《み》た――湯《ゆ》の都《みやこ》は、たゞ泥《どろ》と瓦《かはら》の丘《をか》となつて、なきがらの如《ごと》き山《やま》あるのみ。谿川《たにがは》の流《ながれ》は、大《おほ》むかでの爛《たゞ》れたやうに……其《そ》の寫眞《しやしん》も赤《あか》く濁《にご》る……砂煙《すなけむり》の曠野《くわうや》を這《は》つて居《ゐ》た。
木《き》も草《くさ》も、あはれ、廢屋《はいをく》の跡《あと》の一輪《いちりん》の紫《むらさき》の菖蒲《あやめ》もあらば、それがどんなに、と思《おも》ふ。
――今《いま》は、柳《やなぎ》も芽《めぐ》んだであらう――城崎《きのさき》よ。
[#地より5字上げ]大正十五年四月
底本:「鏡花全集 巻二十七」岩波書店
1942(昭和17)年10月20日第1刷発行
1988(昭和63)年11月2日第3刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:米田進
2002年5月8日作成
2003年5月18日修正
青空文庫作成ファイル:
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