おほ》くは別莊《べつさう》に圍《かこ》はれたり。野《の》の花《はな》は少《すくな》けれど、よし蘆垣《あしがき》の垣間見《かいまみ》を咎《とが》むるもののなきが嬉《うれ》し。
 田越《たごえ》の蘆間《あしま》の星《ほし》の空《そら》、池田《いけだ》の里《さと》の小雨《こさめ》の螢《ほたる》、いづれも名所《めいしよ》に數《かぞ》へなん。魚《さかな》は小鰺《こあぢ》最《もつと》も佳《よ》し、野郎《やらう》の口《くち》よりをかしいが、南瓜《かぼちや》の味《あぢ》拔群《ばつぐん》也《なり》。近頃《ちかごろ》土地《とち》の名物《めいぶつ》に浪子饅頭《なみこまんぢう》と云《い》ふものあり。此處《こゝ》の中學《ちうがく》あたりの若殿輩《わかとのばら》に、をかしき其《その》わけ知《し》らせぬが可《よ》かるべし、と思《おも》ふこそ尚《なほ》をかしけれ。
[#地より5字上げ]大正四年七月



底本:「鏡花全集 巻二十八」岩波書店
   1942(昭和17)11月30日第1刷発行
   1988(昭和63)12月2日第3刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
※底本は、物を数える際や地名な
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