松翠深く蒼浪遙けき逗子より
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)櫻山《さくらやま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地より5字上げ]大正四年七月

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そよ/\と
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 櫻山《さくらやま》に夏鶯《なつうぐひす》音《ね》を入《い》れつゝ、岩殿寺《いはとのでら》の青葉《あをば》に目白《めじろ》鳴《な》く。なつかしや御堂《みだう》の松翠《しようすゐ》愈々《いよ/\》深《ふか》く、鳴鶴《なきつる》ヶ崎《さき》の浪《なみ》蒼《あを》くして、新宿《しんじゆく》の濱《はま》、羅《うすもの》の雪《ゆき》を敷《し》く。そよ/\と風《かぜ》の渡《わた》る處《ところ》、日盛《ひざか》りも蛙《かはづ》の聲《こゑ》高《たか》らかなり。夕涼《ゆふすゞ》みには脚《あし》の赤《あか》き蟹《かに》も出《い》で、目《め》の光《ひか》る鮹《たこ》も顯《あらは》る。撫子《なでしこ》はまだ早《はや》し。山百合《やまゆり》は香《か》を留《と》めつ。月見草《つきみさう》は露《つゆ》ながら多《
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