《たすき》を脱《はづ》した。斜《なゝ》めに袈裟《けさ》になつて結目《むすびめ》がすらりと下《さが》る。
「お邪魔《じやま》申《まを》しました。」
「あれだよ。又《また》、」と、莞爾《につこり》していふ。
「さうだつけな、うむ、此方《こつち》あお客《きやく》だぜ。」
與吉《よきち》は獨《ひとり》で頷《うなづ》いたが、背向《うしろむき》になつて、肱《ひぢ》を張《は》つて、南《なん》の字《じ》の印《しるし》が動《うご》く、半被《はつぴ》の袖《そで》をぐツと引《ひ》いて、手《て》を掉《ふ》つて、
「おかみさん、大威張《おほゐばり》だ。」
「あばよ。」
六
「あい、」といひすてに、急足《いそぎあし》で、與吉《よきち》は見《み》る内《うち》に間近《まぢか》な澁色《しぶいろ》の橋《はし》の上《うへ》を、黒《くろ》い半被《はつぴ》で渡《わた》つた。眞中頃《まんなかごろ》で、向岸《むかうぎし》から駈《か》けて來《き》た郵便脚夫《いうびんきやくふ》と行合《ゆきあ》つて、遣違《やりちが》ひに一緒《いつしよ》になつたが、分《わか》れて橋《はし》の兩端《りやうはし》へ、脚夫《きやくふ》はつ
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