氣《き》が怯《ひ》けます。其《それ》にあなたも舊《もと》と違《ちが》つて、今《いま》のやうな御身分《おみぶん》でせう、所詮《しよせん》叶《かな》はないと斷《あきら》めても、斷《あきら》められないもんですから、あなた笑《わら》つちや厭《いや》ですよ。」
といひ淀《よど》んで一寸《ちよつと》男《をとこ》の顏《かほ》。
「斷《あきら》めのつくやうに、斷《あきら》めさして下《くだ》さいツて、お願《ねが》ひ申《まを》した、あの、お返事《へんじ》を、夜《よ》の目《め》も寢《ね》ないで待《ま》ツてますと、前刻《さつき》下《くだ》すつたのが、あれ……ね。
深川《ふかがは》の此《こ》の木場《きば》の材木《ざいもく》に葉《は》が繁《しげ》つたら、夫婦《いつしよ》になつて遣《や》るツておつしやつたのね。何《ど》うしたつて出來《でき》さうもないことが出來《でき》たのは、私《わたし》の念《ねん》が屆《とゞ》いたんですよ。あなた、こんなに思《おも》ふもの、其《その》位《くらゐ》なことはありますよ。」
と猶《なほ》しめやかに、
「ですから、最《も》う大威張《おほゐばり》。其《それ》でなくツてはお聲《こゑ》だつ
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