、薄《うす》くなつて、ぼんやりして、一體《いつたい》に墨《すみ》のやうになつて、やがて、幻《まぼろし》は手《て》にも留《とま》らず。
 放《はな》して退《すさ》ると、別《べつ》に塀際《へいぎは》に、犇々《ひし/\》と材木《ざいもく》の筋《すぢ》が立《た》つて並《なら》ぶ中《なか》に、朧々《おぼろ/\》とものこそあれ、學士《がくし》は自分《じぶん》の影《かげ》だらうと思《おも》つたが、月《つき》は無《な》し、且《か》つ我《わ》が足《あし》は地《つち》に釘《くぎ》づけになつてるのにも係《かゝは》らず、影法師《かげぼふし》は、薄《うす》くなり、濃《こ》くなり、濃《こ》くなり、薄《うす》くなり、ふら/\動《うご》くから我《われ》にもあらず、
「お柳《りう》、」
 思《おも》はず又《また》、
「お柳《りう》、」
 といつてすた/\と十|間《けん》ばかりあとを追《お》つた。
「待《ま》て。」
 あでやかな顏《かほ》は目前《めさき》に歴々《あり/\》と見《み》えて、ニツと笑《わら》ふ涼《すゞし》い目《め》の、うるんだ露《つゆ》も手《て》に取《と》るばかり、手《て》を取《と》らうする、と何《なん》にも
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