ね》にて鑄《い》たる鼎《かなへ》(に類《るゐ》す)を裾《す》ゑ、先《ま》づ河水《かはみづ》を汲《く》み入《い》るゝこと八分目《はちぶんめ》餘《よ》、用意《ようい》了《をは》れば直《たゞ》ちに走《はし》りて、一本榎《いつぽんえのき》の洞《うろ》より數十條《すうじふでう》の蛇《くちなは》を捕《とら》へ來《きた》り、投込《なげこ》むと同時《どうじ》に目《め》の緻密《こまか》なる笊《ざる》を蓋《おほ》ひ、上《うへ》には犇《ひし》と大石《たいせき》を置《お》き、枯草《こさう》を燻《ふす》べて、下《した》より爆※[#「火+發」、110−5]《ぱツ/\》と火《ひ》を焚《た》けば、長蟲《ながむし》は苦悶《くもん》に堪《た》へず蜒轉※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《のたうちまは》り、遁《のが》れ出《い》でんと吐《は》き出《いだ》す纖舌《せんぜつ》炎《ほのほ》より紅《あか》く、笊《ざる》の目《め》より突出《つきいだ》す頭《かしら》を握《にぎ》り持《も》ちてぐツと引《ひ》けば、脊骨《せぼね》は頭《かしら》に附《つ》きたるまゝ、外《そと》へ拔出《ぬけい》づるを棄《す》てて、屍《しかばね》傍《かたへ》に堆《うづたか》く、湯《ゆ》の中《なか》に煮《に》えたる肉《にく》をむしや――むしや喰《く》らへる樣《さま》は、身《み》の毛《け》も戰悚《よだ》つばかりなりと。
(應《おう》)とは殘忍《ざんにん》なる乞丐《きつかい》の聚合《しうがふ》せる一團體《いちだんたい》の名《な》なることは、此一《このいち》を推《お》しても知《し》る可《べ》きのみ。生《い》ける犬《いぬ》を屠《ほふ》りて鮮血《せんけつ》を啜《すゝ》ること、美《うつく》しく咲《さ》ける花《はな》を蹂躙《じうりん》すること、玲瓏《れいろう》たる月《つき》に向《むか》うて馬糞《ばふん》を擲《なげう》つことの如《ごと》きは、言《い》はずして知《し》るベきのみ。
然《しか》れども此《こ》の白晝《はくちう》横行《わうぎやう》の惡魔《あくま》は、四時《しじ》恆《つね》に在《あ》る者《もの》にはあらず。或《あるひ》は週《しう》を隔《へだ》てて歸《かへ》り、或《あるひ》は月《つき》をおきて來《きた》る。其《その》去《さ》る時《とき》來《きた》る時《とき》、進退《しんたい》常《つね》に頗《すこぶ》る奇《き》なり。
一|人《にん》榎《えのき》の下《
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