白き指のさきわなゝきぬ。
はツとばかり胸をうちて瞻《みまも》るひまに衰へゆく。
「御前様――御前様。」
腰元は泣声たてぬ。
「しづかに。」
幽《かすか》なる声をかけて、
「堪忍《かんにん》おし、坊や、坊や。」とのみ、言ふ声も絶え入りぬ。
呆れし少年の縋り着きて、いまは雫ばかりなる氷を其口に齎《もたら》しつ。腰元|腕《かいな》をゆるめたれば、貴女の顔のけざまに、うつとりと目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85、28−8]《みひら》き、胸をおしたる手を放ちて、少年の肩を抱きつゝ、ぢつと見てうなづくはしに、がつくりと咽喉に通りて、桐の葉越の日影薄く、紫陽花の色、淋しき其笑顔にうつりぬ。
底本:「花の名随筆6 六月の花」作品社
1999(平成11)年5月10日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二巻」岩波書店
1942(昭和17)年9月
入力:門田裕志
校正:林 幸雄
2002年4月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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