、あの、其がね、踊らうと思つて踊るんぢやないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思つても。だもの、気味が悪いんだ。
画工 遣《や》つて見よう、俺を入れろ。
一同 やあ、兄さん、入るかい。
画工 俺が入る、待て、(画《え》を取つて大樹《たいじゅ》の幹によせかく)さあ、可《い》いか。
小児三 目を塞《ふさ》いで居るんだぜ。
画工 可《よし》、此の世間《よのなか》を、酔《よ》つて踊りや本望《ほんもう》だ。
[#ここから4字下げ]
青山、葉山、羽黒の権現さん
[#ここから2字下げ]
小児等《こどもら》唄ひながら画工の身の周囲《まわり》を廻《めぐ》る。環《わ》の脈を打つて伸び且《か》つ縮むに連れて、画工、殆《ほと》んど、無意識なるが如く、片手又片足を異様に動かす。唄ふ声、愈々《いよいよ》冴《さ》えて、次第に暗く成る。
時に、樹《き》の蔭より、顔黒く、嘴《くちばし》黒く、烏《からす》の頭《かしら》して真黒なるマント様《よう》の衣《きぬ》を裾《すそ》まで被《かぶ》りたる異体のもの一個|顕《あらわ》れ出《い》で、小児《こども》と小児《こども》の間《あいだ》に交《まじ》りて斉《ひと》しく廻《まわ》る
前へ 次へ
全36ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング