真似だい。
小児一 兄さんがね、そうやってね、ぶらぶら来た処がね。
小児二 遠くから、まるでもって、凧の形に見えたんだもの。
画工 ははあ、凧か。(背負ってる絵を見る)むむ、そこで、(仕形《しかた》しつつ)とやって面白がっていたんだな。処で、俺がこう近くに来たから、怒られやしないかと思って、その悪戯《いたずら》を止《や》めたんだ。だから、面白かったと云うのか。……かったは寂《さみ》しい、つまらない。壮《さかん》に面白がれ、もっと面白がれ。さあ、糸を手繰れ、上げろ、引張れ。俺が、凧になって、上《あが》ってやろう。上って、高い空から、上野の展覧会を見てやる。京、大阪を見よう。日本中を、いや世界を見よう。……さあ、あの児《こ》来て煽《あお》れ、それ、お前は向うで上げるんだ。さあ、遣れ、遣れ。(笑う)ははは、面白い。
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小児等しばらく逡巡《しゅんじゅん》す。画工の機嫌よげなるを見るより、一人は、画工の背《せなか》を抱《いだ》いて、凧を煽る真似す。一人は駈出《かけだ》して距離を取る。その一人《いちにん》。
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