、突然と顕《あらわ》れ出《い》で、いま巻納めようとする茣蓙《ござ》の上へ、一束の紙幣を投げて、黙っててくんねえ、人に言っちゃ悪いぜとばかり、たちまち暗澹《あんたん》たる夜色は黒い布の中へ、機敏迅速な姿を隠そうとしたのは昨夜の少年。四辺《あたり》に人がないから、滝さんといって呼留めて、お兼は久《ひさし》ぶりでめぐりあったが、いずれも世を憚《はばか》って心置のない湯の谷で、今夜の会合をあらかじめ約したのであった。
三十三
二人は語らい合って、湯の谷の媼《ばば》が方《かた》へ歩き出した。
お兼は四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》して、
「そりゃそうと、酷《ひど》い目に逢いそうだった姉さんはどうしたの。なんだかお前さんと、あの肥《ふと》った、」
「芋虫か、」
「え、じゃあ細長い方は蚯蚓《みみず》かい。おほほほほ、おかしいねえ、まあ、その芋虫と、蚯蚓とお前さんと。」
「厭《いや》だぜ、おいら虫じゃあねえよ。」と円《つぶら》に目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ってわざと真顔になる。
「御免なさいまし、三人|巴《ともえ》になってごたごたしてるので、つい見はぐしたよ、どうしたろう。」
「何か、あの花売の別嬪《べっぴん》か。」
「高慢なことをいうねえ、花売だか何だか。」
「うむ、ありゃもう疾《とっ》くに帰った。俺《おい》ら可《い》いてことよと受合って来たけれども、不安心だと見えてあとからついて来たそうで、老人《としより》は苦労性だ。挨拶《あいさつ》だの、礼だの、誰方《どなた》だのと、面倒|臭《くせ》えから、ちょうど可い、連立《つれだ》たして、さっさと帰しちまった。」
「何しろ可《よ》かったねえ。喧嘩になって、また指環でも揮廻《ふりまわ》しはしないかと、私ははらはらして見ていたんだよ。ほんとにお前さん、あれを滅多に使っちゃあ悪うござんす。」
「蝮《まむし》の針だ、大事なものだ。人に見せて堪《たま》るもんか、そんなどじなこたあしやしないよ。」
「いかがですか、こないだ店前《みせさき》へ突出したお手際では怪しいもんだよ。多勢居る処じゃあないかね。」
「誰がまた姉や、お前《めえ》だと思うもんか。あの時はどきりとした、ほんとうだ、縛られるかと思った。」
「だからさ、私に限らず、どこにどんな者が居ないとも限らないからね、
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