魂《たましい》は身に戻った、そなたを拝むと斉《ひと》しく、杖《つえ》をかい込み、小笠《おがさ》を傾け、踵《くびす》を返すと慌《あわただ》しく一散に駈《か》け下りたが、里に着いた時分に山は驟雨《ゆうだち》、親仁《おやじ》が婦人《おんな》に齎《もた》らした鯉もこのために活きて孤家《ひとつや》に着いたろうと思う大雨であった。」
高野聖《こうやひじり》はこのことについて、あえて別に註《ちゅう》して教《おしえ》を与《あた》えはしなかったが、翌朝|袂《たもと》を分って、雪中山越《せっちゅうやまごえ》にかかるのを、名残惜《なごりお》しく見送ると、ちらちらと雪の降るなかを次第《しだい》に高く坂道を上《のぼ》る聖の姿、あたかも雲に駕《が》して行くように見えたのである。
(明治三十三年)
※作品中には、現在差別的な表現として扱われる語が含まれています。しかし、作品が書かれた時代背景、及び著者が差別助長の意図で使用していないことなどを考慮し、あえて発表時のままとしました。
底本:「ちくま日本文学全集 泉鏡花」筑摩書房
1991(平成3)年10月20日 第1刷
1995(平成7)年8月15日 第2刷
親本:「現代日本文学大系5」筑摩書房
入力:真先芳秋
校正:林めぐみ
1999年1月30日公開
1999年9月4日修正
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