、頭と尾を草に隠して、月あかりに歴然《ありあり》とそれ。
 山路の時を思い出すと我ながら足が竦《すく》む。
 婦人《おんな》は深切に後《うしろ》を気遣《きづこ》うては気を付けてくれる。
(それをお渡りなさいます時、下を見てはなりません。ちょうどちゅうとでよッぽど谷が深いのでございますから、目が廻《ま》うと悪うござんす。)
(はい。)
 愚図愚図《ぐずぐず》してはいられぬから、我身《わがみ》を笑いつけて、まず乗った。引《ひっ》かかるよう、刻《きざ》が入れてあるのじゃから、気さえ確《たしか》なら足駄《あしだ》でも歩行《ある》かれる。
 それがさ、一件じゃから耐《たま》らぬて、乗るとこうぐらぐらして柔かにずるずると這《は》いそうじゃから、わっというと引跨《ひんまた》いで腰をどさり。
(ああ、意気地《いくじ》はございませんねえ。足駄では無理でございましょう、これとお穿《は》き換《か》えなさいまし、あれさ、ちゃんということを肯《き》くんですよ。)
 私《わし》はそのさっきから何《な》んとなくこの婦人《おんな》に畏敬《いけい》の念が生じて善か悪か、どの道命令されるように心得たから、いわるるままに草履を穿いた。
 するとお聞きなさい、婦人《おんな》は足駄を穿きながら手を取ってくれます。
 たちまち身が軽くなったように覚えて、訳《わけ》なく後《うしろ》に従って、ひょいとあの孤家《ひとつや》の背戸《せど》の端《はた》へ出た。
 出会頭《であいがしら》に声を懸《か》けたものがある。
(やあ、大分手間が取れると思ったに、ご坊様旧《ぼうさまもと》の体で帰らっしゃったの。)
(何をいうんだね、小父様家《おじさんうち》の番はどうおしだ。)
(もういい時分じゃ、また私《わし》も余《あんま》り遅《おそ》うなっては道が困るで、そろそろ青を引出して支度《したく》しておこうと思うてよ。)
(それはお待遠《まちどお》でござんした。)
(何さ、行ってみさっしゃいご亭主《ていしゅ》は無事じゃ、いやなかなか私《わし》が手には口説《くどき》落されなんだ、ははははは。)と意味もないことを大笑《おおわらい》して、親仁《おやじ》は厩《うまや》の方へてくてくと行った。
 白痴《ばか》はおなじ処になお形を存している、海月《くらげ》も日にあたらねば解けぬとみえる。」

     十八

「ヒイイン! しっ、どうどうどうと背戸
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