へたので確《しつか》りつかまつた。
(貴僧《あなた》、お傍《そば》に居《ゐ》て汗臭《あせくさ》うはござんせぬかい飛《とん》だ暑《あつ》がりなんでございますから、恁《か》うやつて居《を》りましても恁麼《こんな》でございますよ。)といふ胸《むね》にある手《て》を取《と》つたのを、慌《あは》てゝ放《はな》して棒《ぼう》のやうに立《た》つた。
(失礼《しつれい》、)
(いゝえ誰《たれ》も見《み》て居《を》りはしませんよ。)と澄《す》まして言《い》ふ、婦人《をんな》も何時《いつ》の間《ま》にか衣服《きもの》を脱《ぬ》いで全身《ぜんしん》を練絹《ねりぎぬ》のやうに露《あら》はして居《ゐ》たのぢや。
 何《なん》と驚《おどろ》くまいことか。
(恁麼《こんな》に太《ふと》つて居《を》りますから、最《も》うお可愧《はづか》しいほど暑《あつ》いのでございます、今時《いまどき》は毎日《まいにち》二|度《ど》も三|度《ど》も来《き》ては恁《か》うやつて汗《あせ》を流《なが》します、此《こ》の水《みづ》がございませんかつたら何《ど》ういたしませう、貴僧《あなた》、お手拭《てぬぐひ》。)といつて絞《しぼ》つたのを
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