う、さあお背《せな》を、あれさ、じつとして。お嬢様《ぢやうさま》と有仰《おつしや》つて下《くだ》さいましたお礼《れい》に、叔母《をば》さんが世話《せわ》を焼《や》くのでござんす、お人《ひと》の悪《わる》い、)といつて片袖《かたそで》を前歯《まへば》で引上《ひきあ》げ、
 玉《たま》のやうな二の腕《うで》をあからさまに背中《せなか》に乗《の》せたが、熟《じつ》と見《み》て、
(まあ、)
(何《ど》うかいたしてをりますか。)
(痣《あざ》のやうになつて一|面《めん》に。)
(えゝ、それでございます、酷《ひど》い目《め》に逢《あ》ひました。)
 思《おも》ひ出《だ》しても悚然《ぞツ》とするて。」

         第十五

「婦人《をんな》は驚《おどろ》いた顔《かほ》をして、
(それでは森《もり》の中《なか》で、大変《たいへん》でございますこと。旅《たび》をする人《ひと》が、飛騨《ひだ》の山《やま》では蛭《ひる》が降《ふ》るといふのは彼処《あすこ》でござんす。貴僧《あなた》は抜道《ぬけみち》を御存《ごぞん》じないから正面《まとも》に蛭《ひる》の巣《す》をお通《とほ》りなさいましたのでござい
前へ 次へ
全147ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング